受賞者インタビュー

過去受賞者に、本コンテストへ応募したきっかけや受賞後の活動についてお話を伺いました。

2021年度 地方創生担当大臣賞を受賞!
ごみの収集業務のDX化へのアイデア!
紙おむつを分別回収し資源循環を実現へ。
神奈川県座間市と小田急電鉄へインタビュー
地方創生☆政策アイデアコンテストは、地域経済分析システム(RESAS:リーサス)やV-RESASを活用した課題分析に基づくさまざまな政策アイデアを募集しています。
2021年度の地方創生☆政策アイデアコンテストの地方公共団体の部において、地方創生担当大臣賞を受賞したのは、座間市環境経済部資源対策課の皆さんです。
収集業務の人手不足を解消するため、座間市に沿線地域をもつ小田急電鉄とタッグを組み、現場のDX化を進めてきました。今回受賞したのは、循環型社会の実現に向けて紙おむつを収集し、リサイクルしようというアイデアです。当コンテストへの応募のきっかけや受賞後の活動についてお話を伺いました。
地方創生☆政策アイデアコンテスト2021へ応募したきっかけ
今回の取材では、座間市環境経済部資源対策課課長の依田玄基(よだ はるき)さんと、小田急電鉄株式会社経営戦略部の米山麗(よねやま・うらら)さんのお二人にお話を伺っています。座間市の地域創生に向けてタッグを組むことになった、コンテスト応募以前の経緯をお聞きしました。
座間市と小田急電鉄がチームアップするまでの軌跡
――まずは、座間市環境経済部資源対策課と小田急電鉄経営戦略部についてそれぞれ教えてください。

依田「座間市環境経済部は、身近な公害問題や脱炭素、地域の産業および都市農業の振興、そして廃棄物に関する分野を担っています。また、資源対策課にいる約70名の職員は、ほとんどがごみ収集の現場に出て町の元気印として働いています。私自身も民間のIT企業から転職してきた最初の1年は、現場でごみ収集を経験しました。さまざまな部署を経て資源対策ごみに関わるようになり、もう10年になります。」

米山「小田急電鉄経営戦略部は、小田急グループの経営ビジョンや中期経営計画を策定する部署です。当社は長年取り組んできた複々線化事業の次の事業として、廃棄物収集のDX化に取り組んでいます。高齢化社会による人口減少や人手不足があるなかで、鉄道や不動産などの既存事業だけではなく、沿線の町の地方創生や社会課題の解決をしていく必要があると考えています。資源の枯渇や日本の資源自給率の低さを背景に、地域循環型の社会を目指して座間市さんと一緒に収集業務のDX化を進めてきました。」
――そんな両者がタッグを組むことになったきっかけは何だったのでしょうか?

米山「当社の社宅であった座間駅前の物件をリノベーションして『ホシノタニ団地』を作ったのですが、その一部に座間市さんの市営住宅も入っていただいています。こうした駅前の活性化に向けて座間市さんと小田急電鉄との連携が深まっていたなかで、資源循環の取り組みに共感していただきスタートしたと聞いています。」

依田「小田急電鉄さんが廃棄物に着目し始めた平成30年11月頃から、さまざまな意見交換をしてきました。座間市はそれ以前から資源循環の社会に向けて市民の意識啓発活動をしてきたのですが、それ以上のパワーがない。小田急電鉄さんとしてはWOOMS(ウームス)の実証フィールドが欲しい。ということで思惑が合致し、連携の話がまとまったのが、令和元年6月頃でした。」

米山「WOOMS(ウームス)というシステムは、米国のルビコン・グローバル社が持っていたテクノロジーを日本仕様にアジャストしたものです。座間市さんとはすでにWOOMSの機能を使って、剪定枝や草木の収集業務におけるDX化を実装しています。」

収集サポートシステム「WOOMS」
災害廃棄物や日々の収集業務に対する課題意識からコンテスト応募を決意
――座間市の地域創生に向けて以前から協力されていたのですね。改めて当コンテストに応募したきっかけは何でしたか?

依田「風水害などの災害が起こるたびに、災害廃棄物の処理が自治体の課題となっています。県内を見渡しても十分に余裕がある処理施設は少なく、いま災害が起こったとしても災害廃棄物の処理をする余力がありません。RESASを使って全国の状況を見たときに、廃棄物の減量は座間市や近隣だけの課題ではないと気づかされました。この問題について米山さんたちと話すなかで、『紙おむつの排出量を減らすことで焼却施設のキャパシティを作るのはどうだろう。そのアイデアを全国に広げていかないか?』という流れで、コンテスト応募の話が始まったんです。」
――発端は、災害廃棄物に対する課題意識だったのですね。

米山「はい。それに加えて、収集現場の職員さんたちが毎日収集するなかで『可燃ごみの中にはまだ分別すれば資源になるものがある』と気付いておられたのも大きいです。剪定枝収集の実装ケースを紙おむつにも活用するアイデアも、現場の職員さんたちから出てきたものです。」
「現場力」で共鳴しあい勝ち取った大臣賞
コンテスト応募前から一丸となって取り組んでこられたからこそ、受賞した瞬間の喜びはひとしおだったといいます。受賞前後のリアルなお話やプレゼン資料におけるRESASの活用についても伺いました。

――コンテスト応募にあたって、現場の職員さんたちの反応はいかがでしたか?

依田「3~40年と長く勤めている職員も多く、体力的にどんどんきつくなっていますが、一方で働きがいもすごく求めています。小田急電鉄さんが現場のDX化に向けて一緒に取り組んでくれていることで、現場の職員たちもみんな喜んでいます。」

米山「私自身も鉄道の現場を経験していますし、WOOMSの事業メンバーの中には先日まで運転士をしていた者もいます。駅の中で寝泊まりして寝食を共にして……という現場のDNAが我々の中にもあったからこそ、職員のみなさんとも意気投合できたと思っています。いろんなアイデアについて腹を割って話し合えるのがありがたいですね。」

――受賞したときのお気持ちはいかがでしたか?

依田「優秀賞で名前が呼ばれなかったときに、もう『来た!』と確信しました。呼ばれるまでの間は、喜びをどう表現しようか考えていました。」

米山「私も優秀賞が発表された段階で『大臣賞受賞は確実だろうな』と確信めいたものがあり、信じて待ちました。」

――収集職員の方々も授賞式の様子をオンラインでご覧になっていましたが、みなさんも同じようなお気持ちだったのでしょうか。

依田「いや、現場は確信していたかどうかわからないですね。あれよあれよという間にはしごを上らされて、てっぺんまで来ちゃったという感じでした。ですが、今回のアイデアは現場の職員たちの力を我々が発信してきた結果だと思っています。」
RESASを活用すること自体が副次的な成果だった
――当コンテストはRESASのデータを活用することが応募条件のひとつですが、RESASは有効に使えましたか?

米山「アイデアの裏付けになるような分析を探し、参考にしました。『こんなデータもあるんだ』という新しい発見もありましたし、『仕事にも使えるな』という気付きを得られたのが今回の副次的な成果でした。RESASではほかの地域との比較が容易にできて、東京都や神奈川県のなかでも特に座間市にはどんな特徴があるのかがよくわかりました。」

依田「プレゼン資料の最初に、廃棄物の問題が地球規模の話であると大きく打ち出せたのは、RESASで全国の状況を俯瞰できたからです。自分たちの地域だけの課題ではなく全国の課題だと発信できたのは、RESASのデータを通して自信が持てたからかもしれません。」
地方創生担当大臣賞を受賞し、実現に向けて動き出す
剪定枝のDX化で実装済みのシステムを紙おむつの分別回収にも役立て、収集運搬を効率化し、廃棄物の減量や循環型社会を実現するというアイデアは、地方公共団体の部においてみごと地方創生担当大臣賞を受賞しました。

受賞後の市民の反応は
――受賞後、市民のみなさんからはどのような反応がありましたか?

依田「メディアで受賞が報じられた翌日は、職員たちが収集作業中にあちこちで声をかけられたそうです。行政ががんばることで、市民のみなさんが分別に協力してくださるようになれば、市民の意識啓発にもつながっていると評価できます。」

――剪定枝の分別回収を始めたときには、市民の方に分別方法やごみの出し方について連絡したり、収集職員の方たちにも各収集車に搭載したタブレットの使い方を周知したりと、今までと違う習慣をお願いする場面もあったかと思います。そこに苦労はありませんでしたか?

依田「ビジネス用語でバックキャスティングといいますが、ゴールから逆算して解決策や今すべきことを見つけることを意識しました。具体的には、『ごみを減らす』というゴールに対して『どうやって減らすの?』『差し当たり紙おむつを減らしたいです』『どうすればいいの?』『分別してくれればいいです』という感じですね。もう一つ大事なのが、発信力です。ホームページや広報に掲載するだけではなく、テレビやインターネットなどさまざまなメディアを使って表に出ることで市民からも評価されやりがいが生まれる。発信力をいかに駆使するかがカギだと思っています。」
アイデアの実現に向けて直面している課題
――今後、アイデアを実現するにあたってどのような課題があると考えていますか?

依田「大きな課題は2つあります。1つは、収集運搬をどうするか。収集品目を一つ増やすには費用もお金も非常に膨大にかかります。剪定枝の収集では業務の効率化によって収集車や人件費などの新たな費用を要せず収集品目を増やすことができたので、紙おむつの収集にも応用できると考えています。2つ目の課題は、集めたものをどう資源化するか。リサイクルしていただける事業者さんの発掘ですね。」
――紙おむつをリサイクルできる事業者さんを探すにあたって、どんなところが難しいですか?

依田「座間市と小田急電鉄さんでは2019年に『サーキュラー・エコノミー推進に係る連携と協力に関する協定』を締結していますが、サーキュラー・エコノミーとは、さまざまな資源を経済活動のなかで永遠に使い続けることをいいます。紙おむつのリサイクルも、固形燃料に変えて燃やして終わりではなく、紙おむつから新しい紙おむつ作ることができれば、より大きな意義があります。高い環境意識と高度な技術が必要だと思いますが、ぜひ座間市と組んでやっていきたいとメーカーさんに思っていただけるよう、強いマインドを持って取り組んでいきたいです。」
受賞者からのメッセージ
――これからの活動に向けて、意気込みをお願いします。

依田「ごみの資源やリサイクルは、突き詰めると町そのものの魅力になります。環境配慮の行き届いた町に住むこと自体が価値になり、市のブランドにもなるはずです。小田急電鉄さんからもご紹介のあったホシノタニ団地は、『世界を変えるサーキュラーエコノミー・ソリューション』に日本で初めて選定されました。例えば、このリノベーション住宅に住んで、ごみ収集の仕事を体験しながら、コンポストで堆肥を作って野菜で生活をしてみる……みたいなテレビ番組を企画されている制作会社さんがあれば、ぜひご連絡ください。」

米山「私たちはWOOMS事業を進めることで、廃棄物収集や資源循環の仕事そのものの価値を変えていきたいです。警察官が地域の安全を守る仕事、消防士や救急隊員が命を守る仕事であるならば、ごみ収集に携わる清掃職員さんは地球を守る仕事です。あこがれの職業であってほしいし、そういうブランディングや仕事の価値を高めるお手伝いをしたいです。」
――最後に、地方創生☆政策アイデアコンテスト2022への応募を検討されている方に向けてメッセージをいただけますか?

米山「地方創生は自治体のみなさんが柱になるとは思いますが、地域の企業や市民のみなさん一人ひとりのアイデアが地方創生を盛り上げるきっかけになります。不安な部分は走りながら考えていけばいいですし、得られた結果はどうであれチャレンジしたことは自分の宝物になります。」

依田「地方公共団体の部はすごく特殊な部門だと思います。庁内コンセンサスを得て必要な稟議を取ってから応募しようとすると大変です。でも、自分が関心のある分野に絞って自分が責任を持てる範囲でやれば、応募のハードルは低くなると思います。挑戦してみることの価値はすごく大きいので、みなさんぜひ頑張ってください」

――ありがとうございました。