大学生以上一般の部 西内 啓さん
統計家
株式会社データビークル 代表取締役CPO
多くの企業のデータ分析及び分析人材の育成に携わる。
著書『統計学が最強の学問である』など多数。
――西内さんはデータ分析の専門家として、特に地方創生の文脈で、これまでどのような分析を行い、それをどのように実現に向けて活かしてこられたのでしょうか。
私が地方創生に関して行った一番大きなプロジェクトは、RESASが世の中に出る前のプロトタイプのプロジェクトをお手伝いしたことです。「どうしたら経済が成長するのか」という先行研究の論文を徹底的に調べ上げると、例えば研究開発がすごく大事だということが示唆されていました。それで、その地域に住む人口あたりである分野の特許件数がどれだけあるかと、その地域の企業の収益を分析してみると両者はとてもクリアに相関していました。それを分かりやすく「見える化」するプロトタイプを作ったわけです。これはどちらかと言うと製造業の話ですが、サービス業での出店を適正化できるよう、エリアごとの人口とジャンルごとの店舗数についても分析を行いました。国勢調査以外にも、携帯電話の流動人口のデータを紐づけると、例えば、この地域にはこういうジャンルのお店が足りない、また逆に多すぎると言うことを「見える化」するマップを頑張って作りました。
――西内さんには、過去のアイデアコンテストの審査員もお務めいただきましたが、それを含めこれまで多くのアイデアに触れる機会があったと思います。その中で印象に残っているアイデアや考え方の切り口があれば、教えて下さい。
「この地方の強みを活かしましょう」という時、皆さん「自然がきれい」「食べ物がおいしい」という話をよくされます。その地域にずっと住まわれた人は「うちの地域のこれはおいしくて」と言う気持ちは当然わかるのですが、一方で日本全国に景色のきれいなところや、食べ物がおいしいところはたくさんあります。つまり、それだけで地方創生を考えるのは、飽和している印象です。たぶん、日本国外であっても、例えば南の国の島でのほほんと過ごしている人に「この地域はどうやったら活性化しますか?」と聞いたら、「いや~、観光客と食べ物と」と答えるでしょう。たぶん南の島でも世界中どこの地域に行っても、皆さん同じことを考えられるはずです。そこからもう一歩踏み出したものが、我々が過去にすごく素晴らしいと表現をしたようなアイデアです。例えば、「この地域の商店街が活性化していない」と言う問題は、逆に言えば、ライドシェアをやる上ですごくいい立地なのではないかというように、弱みを強みに変えたり、新しいテクノロジーをうまく取り入れられるような土壌が実はここにはないかを考えると、すごく大きく跳ねるアイデアになると思います。
――どのような視点でアイデアを出すとよいか、アドバイスをお願いいたします。また、RESASついておすすめの使い方があれば教えて下さい。
もともと自分が大学の先生として研究をしていた時、自分のアイデアだけで世界の問題を解決しようと考えることや、目の前のデータだけで何とかしようとすることは実はほぼなくて、まず研究の第一歩として、先行研究を調べることがとても大事なステップになります。特に、自分が審査させていただくのは「大学生以上一般の部」ですが、そういうことは大学以降で身に着けることなので、調べ方を皆さんご存知で、図書館に行くことなどはできると思います。色々な文献のデータベース、例えば、J-STAGEというサイトに行けば、日本語の論文がたくさん見つけられます。当然、Googleスカラーのような検索エンジンを使ってもよいですし、今は無料で使える自動翻訳の性能もかなり向上していますので、自分たちが解決したい課題に対して、かつて色々な人がどのようなことを考えてきたのか調べることをおすすめしたいですね。それらを上手く取り入れられれば取り入れて、自分の求めているものがなかったら、その先に行くためにはどうしたらいいか、というところでデータを使うのが、おすすめの考え方です。そこが多分アマチュアとプロの大きな違いで、先ほどの経済成長の分析も、過去の文献を徹底的に調べたからでてきたプロトタイプです。先行研究を調べて、人類が過去に考えてきたことや既に分かっていることに対して、まだ分かっていない部分について、データを使うのがおすすめです。
また、RESASは色々な意思決定をサポートができますが、RESASだけで分かることと、RESASだけでは分からないから追加でこういう調査が必要だねということを、うまく切り分けることも重要です。そうして独自にデータを取った上で、うまく組み合わせてトータルで何が言えるかを考えると、RESASの価値がさらに高まると思います。
RESASには素晴らしい客観的なデータがたくさんありますが、「この人は一体何を思ってここに来たんだろう」とか、「この人は何を思ってこれを買ったんだろう、作ったんだろう」という情報はないので、そういうことはまず実際の関係者の人たちにインタビューしてみて下さい。そして、インタビューから得られた言葉をイエスかノーで答えられるような質問に落とし込んで、アンケートにしてみましょう。そして、それを分析した結果とRESASから得られる情報を上手く組み合わせると素晴らしい提案になると思います。
――最後に、コンテストに応募しようと考えている社会人・大学生に向けて、メッセージをお願いいたします。
私はよく地方に出張していて、色々な地方の企業の方からデータ活用の相談をたくさんいただきます。皆さんが共通して言うのが、「データ分析ができる人材がうちの地元にどうやったらたくさん増えるんだろう」とか「そういった人はどうすればうちの会社に来てくれるんだろう」ということです。このRESASの政策アイデアコンテストに参加して、「こういった実績を自分たちが作りました」、「大臣に表彰されました」というところまでいくと、地域の中にもデータを使える人材を探している人はたくさんいらっしゃると思いますので、今後のキャリアップの観点からも、本気で取り組んでいただければと思います。頑張って下さい。