全国審査員メッセージ

新田 信行さん

大学生以上一般の部 新田 信行さん

第一勧業信用組合 理事長
全国各地の信用組合と連携し、地方と東京を
結びつける「地産都消」などの取組を推進。


――これまでどのようなことを考えて新しいことに取り組んでこられたのでしょうか?

僕らの仕事は、地域の商店街や地元のコミュニティを元気にすることです。協同組織金融機関は株式会社ではない社会的存在です。地域社会を支える金融機関として、町の人たちを幸せにすることが経営の目的です。当たり前のことを当たり前にやってきたつもりですが、まだやれてないことはたくさんあります。他の人がやれてないこと、それをやらないといけない。例えば、創業支援では、決算書や担保がないのでなかなか融資が難しいですが、誰かが支援しないと地域の商店街がダメになってしまいます。それをやるのが信用組合の役割だと思っています。社会的課題の解決は儲かることばかりではありませんが、地域を良くするには誰かがやる必要があり、それには当然お金がかかります。収益性や効率性を求める他の金融機関ではやれない部分でも、僕らは地域社会のためになることならばやります。

また、僕らはSDGs宣言をしていますから、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を目指しています。自分たちだけ良ければよいのではなく、周りの人たち、さらには日本全体、さらには人類皆が良くならないといけない。皆が良くなるから、自分たちも良くなる。自分たちだけが良くて周りが駄目という状況では、やはり持続的な繁栄はできません。皆が良くなるように、皆と一緒に力を合わせていくことから、東京発の地方創生につながっていく。日本中が元気になるためには、やはり日本中のネットワークを作っていく必要がある。そういう広がりが全国の信用組合や自治体との連携となっていったわけです。

僕らはこれまで、本店2階スペースを各地の信用組合の「東京支店」として東京の学生の採用などのときに使ってもらったり、地方の産品を東京の飲食店に紹介したりと、地域間の壁を壊す取組をしてきました。最近では、ネパールの銀行と組んで、東京に住むネパール人が口座を作りやすくするための取組をしています。日本に住む外国人の中でネパール人は8番目に多いのですが、その中に銀行に口座を持てず、不便な思いをしている方もいます。せっかく日本に住んでくれるのなら幸せになって欲しい、そういう国境の壁も取り払って、地域に住む外国人を幸せにすることも、地方創生のために重要な活動だと考えて、こうしたことに取り組んでいます。

――地方創生の取組を成功させる秘訣を教えてください。

地方創生でまず大切なのは、地元の行政と地域金融機関が一体となっていることです。行政だけではお金を回せません。補助金だけでは経済をダイナミックに動かせないので、どうしても出資や融資をする金融機関が必要です。一方、金融機関だけでも限界があって、行政のお墨付きがあったり、行政からの情報があったり、色々な人のつながりだったり、といった行政の視点は必要ですよね。できればそこに企業や商工会議所などの事業者もあわせて、三位一体となっていることが重要です。

次は、これはあまり皆ができてないことなのですが、その上で他の地域とつながること。自分たちの地域の中だけでは事業はうまく育ちません。金融機関側が「育てる金融」をやろうと思ったら、必ずそとの世界、例えば地方であれば東京、できれば日本中、できれば海外とつながらなければならない。これもSDGsだと思いますが、地域の壁や国境を作らずに、その中で、ヒト・モノ・カネ・情報を、大きな視野で動かしていく。世界からの目線でその地方を見る。着眼大局着手小局です。意外とこの大きな目で見えている人がいなくて、自分の地域しか知らない、だけど多くの地方から人・物・金がどんどん東京に吸い上げられて一局集中していって、地方はだんだん少子高齢化していく。その経済圏しか見ずに、そこで新しい事業をどんどん発展していくことは、無理ですよね。

まず、地元にしっかり根を張って、地元で行政と金融機関と企業が力を合わせていること。その上で、それが外とつながっていること。この2つではないでしょうか。

――アイデアを実現する上で、金融機関をどのように活用すればよいでしょうか。

金融機関の役割は一義的にはお金の仲介ですが、地方創生において金融機関が大事である理由は、ヒト・モノ・カネ・情報が、全て金融機関と行政に集中しているからです。地域金融機関は、いわゆるお金の仲介機能というよりも、ヒト・モノ・カネ・情報の地域のあらゆる経営資源の仲介機能だと考えた方が早いです。地域の人たちは、それにアクセスすればよいので、例えば、こういう人を紹介して欲しい、こういう情報を持っている会社がないか、こういうものを欲しいと言っている会社がないかといった、ビジネスマッチングや販売協力、経営者同士・人と人との交流、様々な情報の提供を金融機関に求めればよいのです。

ただそれは、地域金融機関が外の世界とのヒト・モノ・カネ・情報のやりとりをできないといけません。当組合が色々なところと連携をしているのは、色々なところの人・物・金・情報、あらゆる経営資源とつながっていたいからです。そうしないと、小さな会社でも育てることはできません。地域を超えて販売網を広げたい、自分の地域では後継者がいなくても他の地域には後継者がいるかもしれない。そういう意味で、金融機関は自分自身も人・物・金・情報の仲介を大きな目でできるようにしないといけません。

行政や商工会議所にもそういう役目がありますが、そういったところとのつながりも含めて、事業者にとって、金融機関は第一義的なあらゆる経営資源の提供ができる場所になるのではないでしょうか。

――最後に、コンテストに応募を検討している大学生や社会人の方にメッセージをお願いします。

未来は若い人のものですから、皆で新しい日本の未来を作ってくれたらいいですよね。僕らにとって持続可能な未来というのは、若い人なのです。僕らが若い世代をどうやって育てていくのか、彼らの夢や想いを実現するか、これが審査員としての役割だと思います。

今の日本は、若い人にとってものすごいチャンスの時代だと思っています。それは、世の中が大きく動いているからです。世の中が動いているときには、色々なニーズが生まれて新たなチャンスが出てくるので、それをどんどん捉えて、日本の素晴らしい未来を築いていく、そういったことにチャレンジしていただきたいと思います。